記事概要

2018年6月1日より、「医療広告ガイドライン」が変わります。これまでは、規制の対象ではなかった医院の『ウェブサイト』も広告規制の対象となります。新しい医療広告ガイドラインをしっかり理解し、貴院のウェブサイトが医療広告ガイドラインに抵触しないよう、早めの対策をおすすめいたします。

※以下、ブログ記事は、いかなる理由においても無料複製・転載を禁じます。

今年(2018年)6月より医療広告ガイドラインが変わります。

以前より進められてきた、厚生労働省の『医業もしくは歯科医業又は病院もしくは診療所に関して広告し得る事項及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン):仮称』の有識者会議の議論がほぼ固まり、今年(2018年)6月より施行される見通しです。

▽以下、日本経済新聞:
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2405835029112017CR8000/

この医療広告ガイドラインの改定は、医療広告に携わる広告業界の人々はもちろんのこと、医療業を生業としている経営者からも大変注目されており、すべての医療機関では、この6月までにウェブサイトの対応が急がれ、多くの混乱を生む可能性がでてきました。

そして、これらの混乱の原因は、これら医療広告ガイドラインの変更部分が十分浸透していない所にあります。よって、自社のウェブサイトは、どの部分を変更・改善すべきかの判断が、かなり曖昧になっており、『たぶん、このあたりが引っかかる。』『たぶん、ここを変えないとアウト』という塩梅に、ガイドラインに抵触する部分が明確に理解されていない所であると感じています。

そこで、今回のブログ記事では、具体的に医療広告ガイドラインの変更部分を明確にし、改正にむけた対応が必要な部分、必要でない部分等のポイントをまとめながら情報発信していきたいと思います。

(※ご注意:本記事の内容は、あくまでも参考記事です。それぞれの診療所における対応は、各診療所の個別の判断・責任で行ってください。)

インターネット上における医療広告の激化

この医療広告ガイドラインはおよそ、10年ぶりの改正であると言われています。

この改正の背景には、昨今におけるインターネット上に氾濫する情報の精度を高める目的があると思われ、それだけ、医療におけるインターネット上の情報が、一般消費者の身近になっており、情報収集ツールとしての存在感と影響力が非常に大きいものになったという事がいえます。

特に、最近起こっているGoogleの対応の変化にも注目したいと思います。

広告規制の厳しい医療業界において、インターネットの世界だけは自由に情報発信できる唯一の広告媒体として、大きな力を発揮してきました。
医療施設を経営するドクターにとっては、唯一の宣伝媒体であり、努力すれば努力するほど集客(集患)ツールとして成長していける、最大の武器として君臨してきたのがウェブサイトです。

また、医療施設のウェブサイトは、Googleのネット広告であるアドワーズ広告も利用することができます。
ほとんどのプッシュ型の広告を禁じられている医療業界にとっては、唯一の、そして最大の広告の場でありました。

もちろん、ネット広告ではありますが、医療業界の場合は、一般企業の広告とは若干異なります。『当社製品を買ってください』とか『うちのお店にきてください』という宣伝というよりも、患者さんにとって有益になる、医療情報の発信をすることのできる、非常に社会貢献性の高いツールになり得るものです。

各医療施設が、おのおの、医療情報を発信できるようになったことで、一般の患者さん達は、情報収集が楽になったという事を言うまでもありません。昔は、家庭の医学のような、医療関連の書籍を読み進めないと手に入れられなかった医療の情報が、ネット検索で簡単に調べれます。この部分では、医療におけるインターネット環境の進化は、一般の患者さんの役に立ってきました。

しかし、その反面で、患者さんが誤解してしまう情報や、根拠の無い医療情報も、多くの人々に拡散されるようになってしまったのも事実です。
それにより、医療トラブルが発生し、患者さんの不利益になってしまう事例も増えてしまいました。

医療者が努力すればするほど集客(集患)することのできるツールが、一部の事実誤認によって患者の不利益になってしまう。

自由な言論空間であるからこそ起きた問題ではありますが、これは問題であると言わざるをえません。

そして、これらのネット事情から、最近ではGoogleのアドワーズ広告にも変化がおきています。以前よりも医療広告の審査が厳しくなり、広告対象となるウェブサイトは隅々までチェックされます。文章表現はもちろんのこと、リンクされた先のサイトも問題がないか見られます。

よって、医療広告ガイドラインに反するようなウェブサイトは、Googleのアドワーズ広告の審査落ちするようになりました。これが、最近、非常に厳しくなっているように感じます。

もちろん、Googleアドワーズ広告を使っていない医療機関は関係ないかもしれません。しかし、この流れを鑑みると、たとえネット広告を使っていなくとも、やはり医療広告ガイドラインについては、きちんと理解して対応させたほうが良いと思われます。

だれも見ていないだろう、だれからもチェックされないだろうというのではなく、できるだけ今回の医療広告ガイドラインに沿った改良を行い、倫理上の問題をクリアにしておく必要があると考えます。

医療広告ガイドラインは何が変わり、何に気をつけなければならないか

さて、前置きが長くなりましたが、それでは実際には何に気をつけなければならないかを、簡単にまとめておこうと思います。

詳しく調べるには、下記の厚労省のサイトにある『医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会』の最新資料(PDF)を確認されることをおすすめします。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=335126

しかし、ボリュームのある資料ですので、注意したいポイントだけをまとめます。

特に話題になっており、誰もが気にしているのが、医療機関のウェブサイトにおける患者のビフォー・アフターの情報と患者の体験談についての記載です。

本資料の第3 禁止される広告についての1.禁止の対象となる広告の内容、に変更部分が追記されています。


“患者等の主観又は伝聞に基づく体験談の広告及び治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告が禁止されるものである。”

さらに、これの具体的な掲載内容として、下記の6項目の一部分が変更になっています。特に、医療施設を経営している方々には重要ですのでピックアップしたいと思います。

(1)広告が可能とされていない事項の広告
(2)内容が虚偽にわかる広告
(3)他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告
(4)誇大な広告
(5)患者等の主観に基づく体験談
(6)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれのある治療等の前または後の写真等

次に、上記6つの項目でも重要なポイントを下記にまとめます。

(1)広告が可能とされていない事項の広告

まずは(1)広告が可能とされていない事項の広告 についてです。
これは、広告が可能とされていない事項の広告を禁ずる項目です。例えば、専門外来などの表現です。厚労省が定める場合以外の専門外来については専門外来と表記してはいけません。ここでは、専門外来としており、『●●専門』という表記を禁じているわけではありませんが、個人的には●●専門という表現もできるだけ避けたほうがいいように思います。

(2)内容が虚偽にわかる広告

次に、(2)内容が虚偽にわかる広告 についてです。
『どんなに難しい症例でも必ず成功します』などという、誤解を生む表現も禁じられています。絶対に安全な手術などは医学上ありえないという理由からです。『1日ですべての治療が終了します』という表現もNGです。
さらに、修正・加工した写真を掲載するのも禁じられますので、写真掲載には注意が必要です。
『●●%の満足度』というのも禁止です。ただし、具体的な調査方法などが明確に表記されていれば良いようですので、データの根拠を明確に表記する必要があります。
『当院は●●研究所を併設しています』も、研究の実態がないものはNGとされます。

(3)他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告

次に、(3)他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告 についてです。
これは主に、他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告は禁止されています。『日本一』『No.1』『最高』などの最上級の表現や、その他優秀性について著しく誤認を与える表現はいけません。
特に、最終的なパブコメで追加された表現として『著名人も当院で治療を受けています』等の表現もNGです。

(4)誇大な広告

次に、(4)誇大な広告 です。
救命救急センターや休日夜間救急センターのように認められているもの以外は、『●●センター』などと勝手に掲載することは禁止です。
また、手術や処置の効果又は有効性を強調するものとして、撮影条件や被写体の状態を変えるなどして撮影した術前術後の写真をウェブサイトに掲載したり、あたかも効果があるかのように見せるため加工・修正した術前術後の写真等の掲載も禁止です。

(5)患者等の主観に基づく体験談

そして、多くの人が注目している、(5)患者等の主観に基づく体験談 です。
個人のブログやSNSなどお金をもらって投稿していないもの以外は、患者の主観に基づく体験談の掲載は禁止されます。
項目には『患者の体験談の記述内容が、広告の可能な範囲であっても広告は認められない』と書いてあります。
しかし、ここについては、直接、厚労省に確認したところ、『患者の体験談については治療の内容や効果が入っていなければOK』と電話対応してくださった方が教えて下さいました。
治療以外の部分での掲載は、今の所引っかからないようです。

(6)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれのある治療等

最後に、(6)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれのある治療等 です。
これは、よく医療機関で掲載されている術前・術後の事例紹介に当たる部分です。前述したとおり、加工や修正した画像の掲載は、当然のごとく掲載できませんが、手術前・術後の写真について、通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用などに関する事項等の詳細な説明を付した場合についてはこれに当たらないとされています。

さらに、この情報を掲載したページは、患者にとってわかりやすいように十分配慮し、利点や長所に比べて小さな文字で表記しないことが前提となっています。

ただし、注意しなければならないのは、治療の効果については、元々、広告可能事項ではないため、掲載はできませんので注意が必要です。

改良のポイントまとめ

これまで、今回の医療広告ガイドラインで変更になったポイントを簡単に抜粋してとりあげてみましたが、すでにこれらガイドラインに抵触する内容が掲載されているものについては、できるだけ早く改良が必要になります。

患者の体験談については、かなり掲載が難しくなってしますが、治療や効果について触れていなければ掲載可能のようですので、内容のチェックと整理が必要でしょう。

また、患者さんの事例掲載については、当然のことながら治療の効果の掲載はできませんが、加工していない写真の掲載や、手術のリスクや治療経過、その費用などを丁寧に掲載すればガイドラインには触れないようですので、もう一度すべての記事を見直せばいいかと思います。

6月から変更される医療広告ガイドラインは、業界全体を震撼させましたが、こうして論点を整理すれば、特に不安を感じる必要はありません。
患者さん目線で、事実誤認や混乱させないような表現を見直し、より良い情報を患者さんに提供していただきたいと思っています。
どうぞ、情報の修正やアドバイスについては直接ご相談ください。